新学期がスタートして1~2か月が過ぎるころ、子どもが「朝起きられない」「なんだか元気が出ない」「学校に行きたくない」などと言い出したら、それは「五月病」のサインかもしれません。
新しい環境に少しずつ慣れてきたように見える一方で、それまでの疲れが一気にあふれてしまう子もいます。この記事では、子どもの五月病の原因や、家庭でできる具体的なケア方法について解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 吉田 誠司先生
- 体と心よしだ子供クリニック院長/大阪医科薬科大学非常勤講師
2005年大阪医科大学卒業。高槻赤十字病院にて初期研修修了後、大阪医科大学小児科学教室に入局。起立性調節障害に関する研究で博士号(医学)取得。大阪医科薬科大学病院小児科にて心身症外来を担当。2026年、体と心よしだ子供クリニック開院。小児科専門医・指導医、子どものこころ専門医・指導医、心身医療「小児科」専門医、漢方専門医の資格をもつ。専門は心身症、自律神経。
[監修者]吉田 誠司先生:https://yoshida-kids-cl.jp/doctor/
体と心よしだ子供クリニック:https://yoshida-kids-cl.jp/
新学期の子どもは心も体もフル稼働
4月は入学や進級、クラス替えなど、子どもたちを取り巻く環境が大きく変わる時期です。新生活を迎えると、多くの子どもたちは「新しい友達をつくろう」「勉強を頑張ろう」といった目に見えない期待や緊張、プレッシャーなどを感じ、無意識のうちに「気が張っている状態」で日々を過ごしています。これは交感神経が優位になり、心も体も「戦闘モード」のような状態になっているとも言えます。
この状態は、「自分自身の疲れに気づきにくくなる」という特徴があります。疲れに気づかず日々を過ごしていると、知らずしらずのうちに疲労がピークに達して、ある日突然「もう動けない」という状態に陥ってしまうことがあります。さらに、交感神経の高ぶりは睡眠の質を下げることにつながるため、疲れが回復しにくく、負のループに入りやすくなるのです。
大人のように「疲れたから少し力を抜こう」と自分で調整をするのは、子どもには至難の業。疲れに気づきにくい分、大人が思っている以上に心身への負担が蓄積しやすいことを、まずは知っておきましょう。
子どもの五月病サインと、なりやすい子どもの特徴
そうした疲れの蓄積によって起こるのが、いわゆる「五月病」です。五月病に、医学的な定義はありませんが、一般的には環境の変化についていけず、以下のような心身の症状が見られることを指します。
【子どもの五月病の主なサイン】
- 元気が出ない
- やる気が湧かない
- 疲れやすい
- 食欲が落ちる
- 朝起きられない
- 頭痛や腹痛を繰り返す
特に、就学前や小学校低学年の子どもは、自分がどれくらい疲れているのか、なぜしんどいのかを言葉でうまく表現できません。だからこそ、親は日々のちょっとした変化を見逃さないようにしましょう。
たとえば、朝食のパンがなかなか進まない、帰宅後にソファからずっと動かない、いつもより口数が少ない、ため息が多い、外に遊びに行かずゴロゴロしている時間が極端に増えた、などの変化は、心と体が発するサインである可能性があります。
真面目な性格の子ほど要注意
性格面では、「真面目」「完璧主義」「頑張り屋さん」のお子さんがなりやすい傾向にあります。新しい環境で「ちゃんとやらなきゃ」と責任感を覚えたり、「親や先生の期待に応えたい」「失敗したくない」という思いが強まったりして、自分をギリギリまで追い込んでしまい、気づかないうちに限界を超えてしまうのです。
年齢層に目を向けると、五月病のような状態に陥りやすいのは、幼稚園児や小学校低学年のお子さんよりも、圧倒的に小学校高学年から中学生・高校生で多い傾向にあります。学年が上がるにつれて部活動や塾などのタスクが増えるうえ、スマホやゲームの普及により慢性的な睡眠不足に陥りやすいためです。
「しっかり寝る」が、心身リセットの近道
お子さんに「五月病かな?」と思えるサインが見られたら、まずは「しっかり寝る」ことを実践してみましょう。とてもシンプルですが、これが何よりも効果的です。十分な睡眠には、日中ずっと「戦闘モード」で張り詰めていた自律神経を休ませ、心身を本来のペースにリセットする役割があるからです。
「おなかが痛い」「体がだるくて学校に行けない」などの症状で受診されるお子さんに、日々の生活リズムを聞いてみると、小学校低学年でも夜10〜11時頃まで起きているケースが珍しくありません。
中学生や高校生になると、「毎日6時間は寝ているから大丈夫」と考えてしまうお子さんも少なくありません。しかし、成長期において、6時間の睡眠は不十分であるとされています。アメリカの国立睡眠財団(National Sleep Foundation)の基準によれば、6~13歳では1日あたり9~11時間、14~17歳では8~10時間の睡眠をとることが推奨されています。つまり、朝7時に起きる場合は、遅くとも夜11時までには眠りについている必要があります。
受診の目安と、初診までの家庭での過ごし方
家庭で枠組みを整えても、疲れがピークに達して「どうしても学校に行けない」状態になってしまうことがあります。もしもお子さんが「しんどい」と訴え、3日連続で学校を休んでしまったら、医療機関の受診を検討してみてください。
その際、「心身症かもしれない」と焦って、いきなり専門病院を探す必要はありません。まずは、普段のお子さんの様子を知っている「かかりつけの医療機関」を受診してください。小児科や内科など、年齢に合った診療科で相談することで、ささいな変化に気づきやすく、必要に応じて専門医を紹介してくれます。
受診の大きな目的は、心因性の病気によるものか、身体的な病気によるものかを見分けてもらうことにあります。たとえば、自律神経の乱れによって朝起きられなくなったり、立ちくらみが起こったりする「起立性調節障害」は五月病と症状が似ていますが、治療法が異なります。思い込みによる治療ミスを防ぐためにも、専門家のチェックが必要です。
あわせて、このタイミングで学校の先生にも相談することをおすすめします。授業中の様子や友人関係など、家庭では見えない部分の情報は、医師が診断を下すうえで非常に重要なヒントになるからです。情報を得るためにも、学校とは早めに連携を図っておきましょう。
受診までの期間は、規則正しい生活を心がけよう
小児心療内科などの専門医を紹介された場合、予約がいっぱいで、初診までに1か月近く待つケースも少なくありません。その間、家でどう過ごさせればいいのかと不安になる場合もあるでしょう。
また、「とりあえず今週1週間はしっかり体を休ませよう」と、めどを提示するのも有効です。「みんなは学校で勉強しているのに、自分だけ休んでいていいのかな」と罪悪感や不安を抱えている子は多いもの。親から「この期間は体を休めるための時間だよ」と見通しを立てると、子どもは安心して休息に専念できます。
親子のコミュニケーションで、一方的な押し付けはNG
子どもへの声掛けで意識したいのは、対話型のコミュニケーションです。
具体的には、以下の2点を大切にしてみましょう。
- まず子どもの気持ちや優先したいことを聞く
- その上でどこまで頑張れるか、一緒に決める
何歳であっても、子どもには子どもなりの考えや思いがあります。親が一方的に「早く寝なさい」「休みなさい」と指示をするのではなく、まずは子どもが優先したいことに耳を傾け、それを尊重したうえで、「どこまでなら頑張れるか」を丁寧に話し合いましょう。「自分の味方になって、自分のために一緒に考えてくれている」と感じられれば、子どもはアドバイスを受け入れやすくなります。
お子さんだけでなく、自分自身のケアも忘れずに
新年度の始まりは、大人も気づかないうちに心身の疲労が溜まりやすい時期です。職場の異動、新しい業務、保護者同士の新しい人間関係、毎朝のお弁当づくりのスタートなど、親も多くのストレスにさらされています。
自分に余裕がなくなると、子どものSOSに気づきにくくなったり、「大人だって忙しいんだから、あなたも頑張りなさい」と、強い言葉をかけてしまったりすることもあるでしょう。そうした事態にならないためには、親がストレスを溜め込まないことも大切です。
新しい環境だからこそ、規則正しい生活を心がけよう!
環境が変わる季節は、誰もが知らずしらずのうちに緊張して、疲れが積み重なっているもの。そんな時期ほど、いつも以上に規則正しい生活と十分な睡眠、家族とのコミュニケーションを意識してみることが大切です。家族みんなで「睡眠と休息」を大切にして、新生活のストレスを無理なく乗り切っていきましょう。