「脱水」といえば、夏の暑い時期に起こるイメージがあるかもしれません。しかし、春は気温の上昇や活動量の増加により、無意識のうちに体の水分が不足しやすいため、注意が必要な季節です。特に高齢者は、体内に水分を蓄える力や喉の渇きを感じる機能が弱くなり、本人も気づかないまま脱水が進んでしまうリスクがあります。
本記事では、家族や周囲の人が気づける高齢者の「かくれ脱水」のサインと、今日からできる水分補給のコツを解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 谷口 英喜先生
- 済生会横浜市東部病院 患者支援センター長
福島県立医科大学医学部卒業。麻酔・集中治療、術後回復促進、栄養管理のほか、経口補水療法、熱中症対策、脱水症・かくれ脱水などを専門とする。主な著書に『いのちを守る水分補給 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)ほか多数。
済生会横浜市東部病院:https://www.tobu.saiseikai.or.jp/
済生会横浜市東部病院 患者支援センター:https://www.tobu.saiseikai.or.jp/surgical-support/
私たちの体には、なぜ水分が欠かせない?
成人の体は、体重の約60~65%相当量の水分で構成されています。体内の水分は、血液という形で酸素や栄養を全身の細胞へ運び、体内に生じた老廃物を運び出すという生命維持に欠かせない役割を担っています。さらには、汗をかくことで体温調節の働きもします。
脱水状態になると、だるさや頭痛などの不調が現れるだけでなく、血液の濃度が高く(ドロドロに)なることで血管が塞がりやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気につながる恐れもあるため、注意が必要です。
春こそ注意!高齢者が「かくれ脱水」になりやすい理由とは
かくれ脱水とは、自覚症状がないうちに脱水状態になることを指します。かくれ脱水は誰もがなりうるものですが、なかでも高齢者はリスクが高いといわれています。主な5つの理由を解説します。
体内の水分量が成人と比べて少ない
成人の体では体重の約60~65%相当量が水分であるのに対し、高齢者はその割合が50%程度まで減少します。水分は主に筋肉と皮膚に貯蔵されますが、加齢とともに筋肉量が減少することで、体内に蓄えられる水分量も減り、脱水状態になりやすいのです。
喉の渇きを感じにくくなる
人には喉の渇きを感知するセンサーが備わっていますが、加齢とともに鈍くなっていきます。そのため、水分摂取の回数が減り、本人が「喉が渇いた」と感じる頃には脱水が進んでしまっているケースも少なくありません。
食事摂取量が減る
私たちは、日々の食事から1日で1L程度の水分を摂取しているといわれており、食事は貴重な水分摂取のタイミングです。しかし、多くの人は加齢とともに食事の摂取量が減るため、食事から摂れる水分も少なくなります。
腎機能が低下して尿の量が増える
加齢により腎機能は低下していきます。本来は、腎臓で尿を濃縮して排泄するはずが、濃縮できず水分を多く含んだ薄い尿を排泄するようになるため、尿量が増え、その分体内の水分が減少しやすくなります。
トイレが近くなるため水分を控えがちになる
加齢により膀胱の容量そのものや、溜めておける尿の量が減少することによって、トイレが近くなっていきます。突然の尿意に襲われることを敬遠したり、頻繁にトイレに行くことを億劫に感じたりする高齢の方は、水分摂取量を少なくしてトイレの回数を減らそうとしてしまうケースもあります。
なぜ、春は「かくれ脱水」になりやすいの?
春は気温が高くなり、活動量が増えることで汗をかきやすくなっています。ところが、体から出る水分が増えているにも関わらず、水分補給への意識が冬と変わらず、積極的に水分を摂らないという方も。活動量が増える一方で、水分補給が追いつかないため、春は脱水になりやすい時期と考えられます。
それらの要因に加えて、高齢者は脱水状態に気がつきにくかったり、あえて水分を摂らなかったりするケースもみられるため、春にかくれ脱水になりやすい傾向があります。
高齢者の「かくれ脱水」のサイン
高齢者のかくれ脱水は、本人だけで気がつくのが難しいため、周囲のサポートが重要です。まず大切なことは、「いつもと違った様子がないか」をチェックすること。
水分不足の状態では痛みや疲労を感じやすくなるため、たとえば普段よりも疲れやすくなっている、いつもと違う痛みを訴えるといった場合には、まず水分摂取を促しましょう。
高齢者のかくれ脱水のサイン
□暑い日でも、おでこや脇の下が乾いている
□便秘になりやすい
□食事量が減った
□トイレに行く回数が減っている
□いつもより元気がない
□昼間に寝てばかりいる
□微熱がある
□認知機能の低下がみられる
□口臭がある
□歯周病による歯茎の腫れや痛みがある
□いつもの味つけに対して、塩辛い、味がないなど味覚異常を訴える
何をいつ飲む?高齢者の水分補給のコツ
かくれ脱水を予防するために、何をどのように飲めばよいのか解説していきます。
2時間おきのこまめな水分補給を意識しよう
高齢者は水分を蓄える筋肉が少ないため、一度にたくさん水分を摂取するとかえって利尿作用がはたらき、水分が体に残らなくなってしまいます。1回の摂取量は100~200ml程度(コップ1杯弱)にとどめ、水分摂取の回数を増やすことが望ましいでしょう。
理想は日中に2時間おきの水分補給。最低でも3回の食事+1回の水分摂取で、1日4回は水分補給をしてください。たとえば2時間ごとにアラームをかけ、「アラームがなったら水分を摂る」などのルールをつくるのもおすすめです。「喉の渇き」という感覚に頼らないようにしてみてください。
糖分・塩分が多い飲み物やアルコール以外なら、「飲みやすいもの」でOK!
水分補給は、本人が無理なく飲めるものがベストです。カフェインは利尿作用がありますが、普段から飲み慣れていれば、耐性がつき尿意をもよおしにくくなるため問題ありません。飲み物の温度は、温かいほうが膀胱を刺激しないのでおすすめですが、量を摂ることが大切なので本人が飲みやすい温度でOKです。
水分補給に適していないのは、糖分・塩分が多い飲み物とアルコールです。糖分が多い飲み物は、血糖値を上昇させ、疲れや食欲低下を招きます。また、日本人は塩分を多く摂りすぎている傾向にあるため、水分補給では塩分はゼロに抑えるのが望ましいでしょう。アルコールには強い利尿作用があり、カフェインのように耐性がつきません。摂取した水分が体内に残らず、水分補給には適していません。
就寝時には枕元に常温の水分を置いておこう
睡眠中はコップ1杯程度の汗をかいており、脱水になりやすいといえます。晩ご飯から就寝までの時間が2時間以上空く場合は、寝る前に100ml程度の水分補給をすることが望ましいです。夜中、トイレで目覚めたときは、トイレのあとに1口2口程度でも水分補給ができるよう、枕元にペットボトルの水を置いておくとよいでしょう。また、朝目覚めたときには、少し多めに200ml程度の水分補給をしてください。
脱水で医療機関を受診する目安は?
脱水状態が進むことで、だるさや痛み、足がつるなどの不調を引き起こすことがあります。高齢者が体調不良を訴えたときには、まずは水分補給を促しましょう。500ml程度の水分を摂取しても症状が残っており、日常生活に支障が出ている場合には、医療機関の受診を検討してください。また、体調が悪くコップ1杯の水さえ飲めない場合も、医療機関の受診が望ましいでしょう。
喉が渇く前にこまめな水分補給を!
高齢者は体内の水分量が少なく、喉の渇きも感じにくいため、春こそ「かくれ脱水」に注意が必要です。喉の渇きという感覚に頼らずに、1日のなかで定期的に水分補給ができるよう、ぜひ周囲が気を配ってあげてみてください。