子どもの好き嫌いに悩みすぎない!親子で楽しむ味覚教育

子どもの好き嫌いに悩みすぎない!親子で楽しむ味覚教育

子どもの好き嫌いに悩むご家庭は多いもの。我が子が野菜にまったく手をつけなかったり、逆に炭水化物ばかり食べていたりすると、こんなに栄養バランスが偏っていていいものか……と、親として不安になってしまうのは当たり前です。

解決策になればと食育にまつわる情報を調べてみても、日常で取り入れるにはややハードルが高いアドバイスが並んでいることも少なくありません。

「幼少期は、さまざまな食べ物を受け入れる準備期間。多少ネガティブな反応があっても焦らないで」と話す東洋大学 食環境科学部の露久保美夏准教授は、味わうことを通じて自己表現や他者理解を促し、生きる力を高める「味覚教育」を研究しています。

この記事では、味覚教育という新たな視点から、子どもの好き嫌いと向き合うコツをお届けします。

教えてくれるのは…
露久保 美夏先生
露久保 美夏先生
東洋大学食環境科学部食環境科学科 准教授

千葉大学大学院で修士(教育学)を取得後、お茶の水女子大学大学院で博士(学術)を取得。
同大学特任講師を経て 2016 年に東洋大学に着任、2020 年より現職。専門は調理科学、食文化、食育。大学で教育と研究を行いながら、子ども向けの講座を通して調理科学のおもしろさや五感を使って味わうことの大切さについて伝えている。
 
[監修者] 露久保 美夏 先生:https://www.toyo.ac.jp/staff/74183.html

好き嫌いにとらわれすぎなくていい。幼少期は「食べ物を受け入れる準備期間」

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子どもの食事指導で、必ずといっていいほど聞こえてくる「好き嫌いをなくそう」というフレーズ。そのせいか、「嫌いな食べ物がある=だめなこと」だと思いすぎている風潮があるように感じます。

でも、好き嫌いはあって当然。嫌いなものがあるなら別のもので栄養を摂ればいいし、好きなものはどんどん増やしていけばいいのです。子どもの好き嫌いとうまくつき合っていくには、まず「好き嫌いはなくすべき」という大人の思い込みを手放してもいいのではないでしょうか。

そもそも、たくさんの食べ物を口にしてきた大人は、料理の味を想像できます。でも、いままさに食の経験を積み上げている段階の子どもにとっては、未知の味も多いもの。まだまだこれからなのだから、多少ネガティブな反応があっても、親はおおらかに構えていればいいと思います。

本能的に「嫌いな味」もある

人間には、本能的に好ましく感じる味とそうでない味があります。

生命活動のエネルギー源となる糖質に含まれる「甘味」や、筋肉をつくるために必要なアミノ酸などの「うま味」、体内のミネラルバランスを調節してくれるほどよい「塩味」などは、人間にとって好ましい味。一方で、腐ったものや毒となるものから感じられることがある「酸味」や「苦味」を、人間は本能的に回避しようとします。

幼い子どもが苦味のある食べ物をぺっと口から出したときは、「この子は危険を察知する力がちゃんと働いているんだな」と捉え、まずは受け止めてあげてください。ある研究では、酸味は、4~5歳くらいから少しずつ受け入れられるようになっていくという結果が認められています。

色、形、食感。子どもの好き嫌い、理由はさまざま

子どもの好き嫌いには風味だけでなく、ほかにもさまざまな要因があります。食感や見た目、色がイヤ。魚の骨や果物の種は取り除くのが面倒くさいからイヤ、という理由もよく聞きます。

茹でたエビは食べるけれど、エビフライは嫌がる子に理由を聞いてみると、揚げ物を口に入れたときのチクチクした感触が痛くてイヤだった、という話もありました。そんなふうに繊細な感覚を持つ子も少なくありませんし、なにが好きでなにを苦手とするかはその子の個性のひとつ。また、さまざまな「嫌い」の理由を、すべての子どもがうまく言語化して伝えられるとは限りません。

それに、成長するにつれて好みが変わることもあるし、さまざまな食経験を経て味わう力もどんどん育っていきます。幼少期は、いろいろな食べ物を受け入れるための準備期間。いま食べられなくても、この先だんだんと受け入れられるようになるかもしれないのだから、焦りすぎる必要はないのです。

もちろん、保護者として「子どもに栄養を摂らせなくては」という責任感から、思い詰めてしまう方もいるでしょう。

でも、虫が嫌いだと言う人に、無理やり虫を近づけようとはしませんよね。スポーツや音楽に興味がない子どもに、「やらなきゃだめだよ」と押しつけたりもしないはずです。本当は、食事も同じ。なぜか食事だけは「好き嫌いなく食べるべき」という雰囲気があるけれど、気にしすぎる必要はありません。生きていくために最低限食べられればいいし、どうしても食べ物で摂れない栄養素は、サプリメントなどを活用するという選択肢も持っておけばいいのです。

味わう力とコミュニケーション力を育む、「味覚教育」ってなに?

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私が研究している「味覚教育」は、食育のアプローチのひとつです。そのゴールは「豊かな人間性を育むこと」。「好き嫌いをなくすこと」や「栄養素に詳しくなること」ではありません。食べることを通じて自分の感じ方を知り、それを他者と共有してお互いの理解を深める――そのアクションが、「自分は自分でいいんだ」という自己肯定感やコミュニケーション力を伸ばしていくと考えています。

味わって、感想を言葉にすることから始めてみよう

食べるという行為は唯一、五感をフル活用する行動だといえます。音楽はおもに聴覚、美術は視覚で楽しむことが多いですが、食事は見た目・におい・音・食感・味といったようにあらゆる感覚を使って味わうもの。しかも、自分が食べてどう感じるかは自分にしかわからず、誰かに代わりに味わってもらうことはできません。親子でも、同じ食べ物を食べた感想は違っていて当たり前なのです。

また、食はこれまでの経験値がまったく異なる誰とでも、それぞれが感じたことを話題にしてコミュニケーションが取れます。知識がないと成り立たないようなディスカッションと違って、自分なりの考えや思想がなくても、その場で感じた「しょっぱすぎる」「ちょっとしょっぱい」「しょっぱくない」といった感想を気軽に表現し、伝え合うことができるのです。

これほど誰とでも楽しめて、感じ方に正解がない行為は、なかなかないのではないでしょうか。だからこそ、一緒に味わい、感じたことを伝え合うことが、大きな意味を持ちます。一人ひとりが自分の持つあらゆる感覚を使って味わい、感じたことを自由にシェアして、そこから「自分は自分の感じ方でいい」「相手には相手の感覚があるんだ」ということを体感するのが大切なのです。

そうしたコミュニケーションを重ねていくと、さまざまなシーンにおいて発言のハードルが下がることが期待できます。自分の意見を伝えることに抵抗が少なくなり、誰かと意見が異なったときも、伝え合ったからこそ「違う意見があることを共有できた」「自分自身を否定されたわけではない」とありのままに受け止められるようになるはず。それが、自分も相手も尊重する姿勢につながるのです。

苦手なものとの距離を縮めれば、食べられることも

私は小学生とその保護者向けの調理実験教室を実施するなかで、味覚教育を取り入れています。例えば、「スライスチーズの“とろけるタイプ”と“通常タイプ”は、加熱するとどうなる?」「まぐろのサクを異なる温度で加熱してツナをつくろう」といった調理実験を通じて、食べ物の変化を知り、科学的なアプローチから食への興味関心を高めるというプログラムです。実験前にどうなるかを予想して、実際に手を動かして観察し、結果を解説する。そのステップのなかで材料を触ったり、においをかいだりして、その都度感じたことを記録し、お互いに伝え合うという時間を大事にしています。

にんじんを使った実験をしたとき、参加者のなかににんじんが苦手な子がいました。でも、まずはよく見てみる。次は切って、かたさやにおいを感じてみる。薄く切ったものをかじってみる。炒めたら、茹でたら、味やかたさはどう変わる? 「気になったタイミングで自由に味見をしてみてね」と声をかけ、いろんな手を加えながら変化を観察し、感じたことを表現していくうちに、その子とにんじんとの距離は徐々に近づいていきます。最後には、「焦げるまでじっくり炒めたら、甘くて香ばしくておいしい!」というその子なりの気づきが聞こえてきました。あらゆる感覚を使いながら自分自身で新たなおいしさを発見したことにより、食材との関係性がぐっと深まった例です。

今日からおうちでできる対話と、食事の場づくり

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味覚教育は、おうちで取り入れるのも簡単です。最もシンプルなのは、「同じものを食べて、どう感じたかを伝え合う」こと。コミュニケーションの取り方には、ちょっとしたコツがあります。

子どもも大人も感じたことをシェアする

一緒に食事をしているときに、「サクサクしていておいしい!」「これはちょっと酸っぱいかな~」「色がキレイで香りも好き」など、感じたことを言葉にして表現することを意識してみてください。子どもだけが言うのではなく、保護者も自分の感想を伝えるのが大切です。

その際に、「モチモチしておいしいよね。好きでしょ?」などと無意識に共感を求めたり、感覚を決めつけたりしないようにするのがポイントです。あくまで大人は、自分なりの感想をただ言語化するだけ。そうした会話から、子どもはさまざまな表現を学んでいきます。

どんな感じ方も否定しない

そうした共有の時間で大切なのは、「否定せずその子の感じ方をただ受け止めること」。はっきり言葉にしなくても、「えっ?」「そんな味する?」とけげんなリアクションをとっただけで、子どもは「自分の感想は間違っているのかも」などと受け取ることがあります。だから、声のトーンや語尾のニュアンスにも気をつけて、子どもの言葉をまずはただ聴いて受け止めてあげてください。

感想を急かさない

一口食べてすぐ感想を急かすのも気をつけたいところです。大人よりも食の経験値が少ない子どもは、自分の感じ方を言語化するにも時間がかかることがあります。できるだけじっくり、味わうことと言語化するための時間を取り、子どもの表現を楽しみに待ちましょう。

こうしたコミュニケーションを取るからといって、特別な食事を用意する必要はありません。いつもの手作りごはんでも、テイクアウトや外食の際でも、気軽に感想を伝え合ってみてください。

まずは、食事が楽しめる場づくりを

そうした食事のなかでやっぱり苦手な食べ物と出合ったら、どんなところが苦手なのかを聞いてみましょう。じつは、その食べ物自体がいやなのではなく、食事の環境が整っていないケースもあります。周りがテレビなどで騒がしすぎたり、「早く食べなさい」と急かされてばかりだったり、もしくは一人ぼっちでさみしかったりする食卓では、落ち着いて食べるモードになれないのかもしれません。

もちろん、忙しい日常で、つねに理想的な食卓を整えるのは難しいでしょう。でも、子どもの発達は模倣からはじまるもの。大人が楽しくおいしく食べている姿を見せるだけで、子どもの食事との向き合い方は変わっていきます。食事は、心も体も満たされる素敵な時間。だからこそ、まずは“食事が楽しめる場づくり”を心がけていただきたいです。子どもの苦手な食べ物は、時間が解決してくれるものも少なくありません。その成長を急かすのではなく、過程を見守るスタンスでOK。これから先、食べられるものが増えていき、一緒に楽しめる機会が増えていくことを楽しみにするという捉え方もあってよいと思います。

苦手をなくすのではなく、好きを増やす!

幼少期は、さまざまな食べ物を受け入れる準備期間。いま苦手なものも、そのうち食べられるようになるかもしれないと気楽に構えましょう。大人が楽しくおいしく食べている姿を見せるだけで、子どもの食事との向き合い方は変わっていきます。ぜひ、日々の食事を楽しんで!

CREDIT
取材・文:菅原さくら 編集:HELiCO編集部+ノオト イラストマンガ:モチコ

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