冬になると、手足が冷えてつらい。または、普段から足がむくみやすかったり、疲れやすかったり……。それらを「体質だから」とあきらめていませんか? じつはその不調には、「ゴースト血管」と呼ばれる毛細血管の変化が関係しているかもしれません。
毛細血管は、酸素や栄養を体のすみずみまで届ける大切な通り道。ここがうまく機能しなくなると、冷えやむくみだけでなく、さまざまな不調につながります。この記事では、「ゴースト血管」になるしくみとともに、生活のなかでできる血管ケアについて、わかりやすく解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 髙倉 伸幸教授
- 大阪大学 微生物病研究所情報伝達分野
1988年三重大学医学部卒業、血液内科医として5年間臨床に従事。その後、1997年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士の学位取得。熊本大学医学部助手〜助教授、金沢大学教授を経て2006年、大阪大学教授。2023年から大阪大学微生物病研究所所長(2024年度)。大阪大学大学院医学系研究科博士課程(組織再構築学)、生命機能研究科(生命理工学講座、組織再構築学)、免疫学フロンティア研究センター(情報伝達分野)の教授を兼務。2015〜2018年度、日本血管生物医学会、理事長。血管形成の機序解明を通してがんや老化関連疾患の治療薬の開発を行っている。「ゴースト血管」という概念の提唱者であり、著書に『ゴースト血管をつくらない33のメソッド』(毎日新聞出版)がある。
[監修者]髙倉 伸幸教授:https://st.biken.osaka-u.ac.jp/member/ntakaku
冷えや血行に影響する「ゴースト血管」
ゴースト血管とは、血液が流れなくなり、消えかかっている毛細血管の状態を表す言葉です。正式な医学用語ではありませんが、「人が住まなくなった街(ゴーストタウン)」のように、「血液が通っていない血管」という意味で名づけられました。
顕微鏡で見ると、血管の“形”はあっても、なかを流れるはずの赤血球が見えなくなっている状態。これが、いわゆる「ゴースト血管」です。
毛細血管はとても細く、繊細な血管
私たちの体のなかには、全長で約10万キロメートルもの血管が張り巡らされています。その95〜99%を占めているのが毛細血管です。毛細血管は、動脈と静脈をつなぐ、直径100分の1ミリほど(髪の毛の約10分の1)の細い血管で、酸素や栄養を細胞に届けて、二酸化炭素や老廃物を回収するという、非常に重要な役割を担っています。
毛細血管の構造はとても繊細です。動脈や静脈は、「内膜・中膜・外膜」という三層構造で守られていますが、毛細血管の壁は内皮細胞一層のみ。その外側を「ペリサイト(周皮細胞)」と呼ばれる壁細胞がまばらに支えています。
あえて透過性が高い状態にすることで、血管壁のすき間から酸素や栄養を細胞へ届けやすい仕組みになっているのです。一方で、血圧や血糖値、ストレスの影響を受けやすいという弱点も。傷んで劣化した毛細血管には血流が通わなくなり、「ゴースト血管」へと進んでいくことがあります。
人間の体には「恒常性」という機能があり、血管の内側をつくる細胞は、傷ついても生まれ変わる力を持っています。一時的に毛細血管がゴースト化しても、元に戻そうとする仕組みが備わっているのです。ただし、ダメージが長く続くと、再生が追いつかなくなり、血管が細く短くなってしまうことがあります。
ゴースト血管が増えると、どんな影響がある?
毛細血管がゴースト化すると、血液(赤血球)が末端まで届きにくくなります。その結果、健康面でも美容面でも、以下のような不調やトラブルにつながりやすくなります。
- 指先や足先が冷える
- むくみやすくなる
- しみやシワ、肌のくすみが目立つ
- 爪がもろくなる
- 髪のボリュームが減る
- 疲れやすくなる
- 風邪をひきやすくなる
- 便秘がちになる
なかでも「冷え」はとてもわかりやすいサイン。血液は体温で温められて心臓から全身へと送られますが、ゴースト化した血管が増えている部分では、温かい血液が体の末端まで届かなくなるため、手足が冷えやすくなります。「手先が青白くなる」「指先を触ると冷たい」という人は、毛細血管が弱っている可能性もあります。
また、「むくみ」も見逃せないサインです。毛細血管が弱ると、水分が血管外へ漏れやすくなり、本来は回収されるはずの水分が組織にたまりやすくなります。靴下のあとがくっきり残ったり、マスクのゴムあとがなかなか消えなかったりするのは、その目安になります。
さらに、ゴースト血管は、認知症や骨粗しょう症、視機能の低下などとの関連が報告されています。いずれも、血流が悪くなることで、脳や骨、目といった組織に必要な酸素や栄養が届きにくくなることが関係していると考えられています。
骨粗しょう症は、閉経後の女性で増えていく疾患です。運動や日光浴、カルシウムやビタミンDの摂取が大切ですが、毛細血管が働かないと、せっかくの栄養も細胞へ届けられません。健康な毛細血管は、若々しさを支える「土台」なのです。
あなたの毛細血管は大丈夫?簡単セルフチェック
次の方法で、毛細血管の状態をチェックしてみましょう。
① 親指で爪をぎゅっと押して白くし、パッと離す
② 2秒以内に爪がピンクに戻れば、血流は良好と考えられる
5秒以上かかる場合は、末梢の血流が低下している可能性があります。しびれや痛みがある場合には、医療機関へ相談してください。
ゴースト血管を招きやすい生活習慣
毛細血管は加齢とともに劣化しますが、生活習慣の影響も大きく受けます。主なリスク要因を見てみましょう。
血糖値の急上昇(糖分の取りすぎ)
甘い飲み物の一気飲みやドカ食いで血糖値が急上昇すると、毛細血管の内側の細胞に負担がかかります。
運動不足
筋肉を動かさないと血流が滞ります。特に下半身の筋力低下は、全身の血流に影響します。
慢性的なストレス
自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮しやすくなります。活性酸素も増えやすく、血管壁に負担がかかります。
睡眠不足
睡眠中は、血管修復に関わる成長ホルモンが分泌されます。睡眠不足はその働きを妨げます。
高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病
高血圧、脂質異常症、糖尿病は、血管を傷つけやすい要因です。
このほか、喫煙・多量の飲酒も、血管に大きな負担をかけます。健康な方でも、生活習慣が乱れることでゴースト血管が増えてしまうことがあります。毛細血管は、「生活習慣の状態を映す鏡」のような存在と考えるとよいでしょう。
今日からできる!毛細血管を育てる習慣
毛細血管は、年齢に関係なく「再生する」力を持っています。血流を改善すると、短くなっていた毛細血管が再び伸びてくることが観察されており、早い人では1週間ほどで変化を実感するケースも報告されています。冬こそ、毛細血管を意識した生活を始めましょう。
11日7,000歩を目安に歩く
激しい運動は不要です。気持ちよく歩くだけで血流が改善します。
2かかと上げ下げ運動
ふくらはぎは「第二の心臓」。血液を押し流すポンプの役割をします。「かかとを上げる → ゆっくり下ろす」を1日20回×3セット行います。立ち姿勢がつらい場合は、無理せず座った状態で実践しましょう。
3入浴で温まる
ぬるめのお湯(38〜41℃目安)に浸かって血管を広げましょう。就寝1〜2時間前の入浴は、入眠も助けてくれます。
4食べ物でいたわる
偏食を避け、バランスの取れた食事を意識しましょう。シナモン、ルイボスティー、ターメリック、ヒハツ(ロングペッパー)は、毛細血管の構造を支える働きに注目されている食品です。ひとつに偏らず無理なく取り入れてみましょう。
毛細血管を意識して、健康的な毎日を過ごそう!
毛細血管は、単なる末端の血管ではなく、体のバランスを整える私たちの健康の土台です。冷えやむくみは、体からの大切なサインであり、毛細血管を意識して「育てる」きっかけと捉えることもできます。さっそく、できることから始めてみましょう!