暖かな気候となる春先は、おでかけしたい気持ちも高まるもの。ただ、冬の寒さによって活動量が減り、筋力が低下した下半身は転倒リスクが高まった状態にあります。特に高齢者においては、転倒は思わぬ健康リスクにつながることもあるため、一段と注意が必要です。
本記事では、高齢者の転倒リスクが高まる原因や、足腰を鍛えるために自宅でできる運動などをご紹介します。
- 教えてくれるのは…
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- 八幡 亮さん
- Rioグループ株式会社 代表取締役。理学療法士。
リハビリテーション病院で4年間勤務した後、オーストラリアへ渡りパーソナルトレーナー/指圧マッサージセラピストとして活動。2020年に出張パーソナルトレーニング×ボディケア RioToRe(リオトレ)の事業を立ち上げ、2022年にはRioグループ株式会社を設立。
[監修者] 八幡 亮さん:https://riotore.com/trainer/
RioToRe:https://riotore.com/
「ただのケガ」ではすまない!高齢者の転倒リスク
つまずいて足元のバランスを崩したり、転んでしまったりすることは世代を問わず、誰にでも起こりえます。そのため、転倒と聞いても「たいしたことはない」と考える方もいるかもしれません。しかし、特に高齢者においては、転倒によって日常生活に大きな影響を及ぼす骨折のリスクが高まります。転倒時にとっさに手をつくことができずに尻もちをつき、太もものつけ根にある大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)を骨折するケースが多くみられます。
大腿骨頸部を骨折すると、脚のつけ根に痛みが生じるため、ほとんどの場合で立つこと・歩くことができなくなってしまいます。それにより寝たきりや閉じこもりになり、さらに運動機能が低下したり、認知症が進行してしまったりするケースも珍しくありません。こうしたことから、高齢者はなおさら「たかが転倒」と侮らず、転倒予防をすることが大切です。
高齢者の転倒リスクが高まる3つの原因
65 歳以上の 3 人に 1 人は、1 年間に1 回以上転倒するといわれています。高齢になると、なぜ転倒リスクが高まるのでしょうか。転倒は、複数の身体機能の低下が重なることで起こります。
1筋力低下
転倒リスクの観点では、主に体幹や下半身の筋力が重要です。下半身の筋力が低下していると、歩行時の安定性が失われて、少しの段差やつまずきで転倒するようになってしまいます。
バランスを崩したときにとっさに踏ん張ることができないため、膝からガクッと崩れるような転倒や尻もちにつながります。体幹の筋力低下による影響は、次に説明する「姿勢の崩れ」にもつながってきます。
2姿勢の崩れ
体幹の筋力低下によって猫背になっている高齢者は少なくありません。こうした姿勢の崩れによって、理想的な姿勢よりもバランスが不安定になってしまうため、少し重心がずれるだけでも転倒しやすくなってしまいます。
3バランス機能の低下
バランス機能には、体の傾きなどを認識する「平衡感覚」、自分の体がどのように動いているか(どのくらい足が上がっているか、関節が曲がっているかなど)を視覚に頼らずに把握する「運動感覚・位置感覚」などが含まれます。
こうした機能は、加齢とともに徐々に低下していきます。すると、自分の体が傾いていることなどを認識できず、あるいは適切な姿勢に戻すことができず、転倒リスクが高まります。
筋力低下によって姿勢が崩れ、姿勢の崩れがバランス機能の低下につながるなど、これらの要因はそれぞれ密接な関係にあり、どれか1つが起こると相互に関係しあって悪循環に陥りやすいともいえます。だからこそ、日頃から転倒予防のためのトレーニングを生活に取り入れ、機能を保つことが大切なのです。
転倒予防のためのトレーニング4選
では、筋力低下を防ぐためのトレーニングを4つ紹介します。
トレーニングは決して無理をせず、できる範囲から徐々に回数を増やしていくようにしましょう。1つの種目につき多くても3セット程度にとどめ、「正しいフォームで毎日継続すること」を大切にしてください。なお、トレーニングは、就寝前に実施すると覚醒して寝つきが悪くなってしまうので、できれば日中に行うようにしましょう。
お尻(中臀筋:ちゅうでんきん)のトレーニング
① 壁や高めのテーブル、椅子の背もたれなどに手をつき、まっすぐ立つ
② お尻の筋肉を意識しながら、片脚をなるべく横に広げる
③ 足を最初の状態に戻す。これを左右10回ずつ行う
POINT:足を横に広げる際、体幹はまっすぐに保ちましょう。また、腰が反らないように注意!
お尻(大臀筋:だいでんきん)のトレーニング
① 壁や高めのテーブル、椅子の背もたれなどに手をつき、まっすぐ立つ
② お尻の筋肉を意識しながら、膝を伸ばしたまま片脚を後ろに上げる
③ 足を最初の状態に戻す。これを左右10回ずつ行う
POINT:中臀筋のトレーニングと同様に、腰が反ったり丸まったりしないよう注意!
前もも、もも裏、お尻のトレーニング
① 背筋を伸ばし、骨盤を立てた状態で手を腰に当てて、椅子に座る
② 目線は前方にキープしながら、骨盤から折り曲げるように前傾姿勢をとる
③ 反動を使わずに3秒ほどかけてゆっくりと立ち上がる
④ 同様に3秒ほどかけてゆっくりと椅子に座る
⑤ ①~④を10回繰り返す
POINT:猫背にならないように、目線は前に向ける。支えがないと不安な場合には、テーブルに手をつきながらでよいのでゆっくり立ち上がり、ゆっくり座ることを意識して行いましょう。
ふくらはぎのトレーニング
① 壁や高めのテーブル、椅子の背もたれなどに手をつく
② 足を肩幅くらいに開き、お腹に力を入れてまっすぐ立つ
③ その状態から、かかとの上げ下げをゆっくり10回行う
POINT:お腹をへこませるようなイメージで力を入れ、体がまっすぐになることを意識しましょう。立ったままの実施が難しい場合には、座った状態でかかとを上げ下げするのでもOK!
靴選びから歩き方まで。室内外の過ごし方を見直そう
転倒予防のためにコツコツとトレーニングをすること以外にも、日常生活で気をつけたいポイントがあります。室内外を問わず、転倒しやすいシチュエーションを把握して、対策していきましょう。
座りっぱなしに注意しよう
高齢者は、日中椅子に座っている時間が長くなりがちです。すると、足のつけ根にある腸腰筋(ちょうようきん)という筋肉が固まってしまいます。腸腰筋が硬くなることで股関節の動きが制限され、立ち上がる際に体を起こしにくくなります。
また、関節も座った状態で固定されて硬くなっていくことで可動域が狭くなり、発揮できる筋力が弱くなります。一定時間が経ったら立ち上がるよう心がけるなど、関節や筋肉が座ったままの状態で固まらないように気をつけましょう。
カーペットの段差やコード類に気をつけよう
家では、夜間トイレに向かう際、特に注意が必要です。覚醒し切っていない状態で暗い場所を歩くことで、転倒の危険性が高まります。寝室からトイレまでの動線には、転倒を招くようなコード類、カーペットや絨毯などを置かないようにしましょう。
かかとのある室内履きを使おう
かかとがないスリッパは、履いているとき無意識につま先に力が入ります。すると、いざバランスを崩したときに、つま先に余計な力が入っているため、反応がワンテンポ遅れてしまう場合があります。できれば、かかとのある室内履きを使用するようにしましょう。
床がフローリングの場合には、靴下で滑って転倒することもあるので、滑り止めのついた靴下を履くのもおすすめです。階段には、段差が見えやすいようにするために、濃い色・明るい色の滑り止めを貼るとよいでしょう。
かかとから地面につく歩き方を意識しよう
べた足、すり足は転倒しやすい歩き方とされています。理想は、かかとから足を地面につくこと。かかとから足をつくことで、お尻や足の筋肉がしっかり働き、より効率的に筋肉を使うことができます。それにより全身の連動性が高まり、歩行時の安定性が増します。
また、外出時は、きちんとサイズの合った靴を履くようにしましょう。靴の底が柔らかすぎると、体のバランス状態を感知する足裏のセンサーが働きにくくなってしまうので、ソールは適度な硬さのものを選んでください。足の形は人によってさまざまなので、「自分にフィットする」「安定感がある」と思う靴を選ぶことが大切です。
- 靴を買いに行くなら午後が最適?「足」のトリビア5選
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靴を買うとき、どんなポイントを重視して選んでいますか? デザインや素材、色などはもちろん、サイズもチェックしていると思います。しかし、ちゃんと試着して買った靴でも、靴擦れしたり足が痛くなったりしてつらい経験をしたことがある人も少なくないでしょう。https://www.aisei.co.jp/helico/health/trivia-foot/
足の健康を保つためには、用途に合った靴選びや日々のケアが大切です。今回は、知っていると靴選びにも活かせる足のトリビアを、足のクリニック表参道 院長の桑原靖先生に教えていただきました。
歩行に不安がある場合は、杖やシルバーカーを使うのも◎
しっかりと筋力がある時期から杖やシルバーカーに頼ってしまうと、筋力低下や姿勢の乱れにつながることもあります。ただし、本人が歩行に少しでも不安や恐怖感を感じていたり、第三者から見てふらつきがあったりする場合には、安心のためにも杖やシルバーカーを活用しましょう。杖は立った状態で手を体の横につけたとき、手首の骨に持ち手がくるくらいの長さが適切です。
人混みでとっさに人を避けたときにバランスを崩して転倒してしまうこともあるため、人が多くなる時間帯や場所への外出は特に気をつけましょう。
トレーニングや日常生活の工夫で転倒予防を!
転倒予防のためには、トレーニングを毎日コツコツ継続して、筋力や姿勢、バランス機能を保つことや、「転びやすい場面」を知り、それを避けることが重要です。春の心地よい外出シーズンに向けて、まずは1種目1セットからでもトレーニングを実践したり、家の中の環境や外出時の靴や杖などを見直したりしてみましょう。