日本は台風や大雨、地震などの自然災害が起こりやすいため、「いざというとき」のための備えが重要です。しかし、防災リュックに非常食や飲料水は準備していても、「常備薬」までは意識できていないという方も多いかもしれません。
本記事では、市販薬を中心に、防災リュックに入れておきたい常備薬を紹介します。また、持病などで普段から処方薬を服用している方に向けて、 災害時に備えた薬の管理方法や服薬情報の管理についても解説します。
- 教えてくれるのは…
-
- 望月 一司さん
- アイセイ薬局 在宅推進部 部長
昭和薬科大学薬学部薬学科卒業。認定薬剤師、日本アカデミック・ディテーリング認定薬剤師。現在は株式会社アイセイ薬局 在宅推進部 部長として、地域に根ざした在宅医療の推進と、薬剤師の職能向上に取り組んでいる。患者さま一人ひとりの生活に寄り添い、平時だけでなく災害時も見据えた安心・安全な薬物療法の提供に注力している。
なぜ防災リュックに常備薬が必要?
災害時は、インフラがストップして物流が滞り、医療機関をすぐに受診できない状況が想定されます。非常時であることから、心身にイレギュラーなストレスがかかり予想外の不調が出ることもあります。特に、大規模災害の直後は、救護班や医療支援のチームが到着するまで数日かかることも珍しくないため、「いざというとき」のために市販薬を備えておくことが大切です。
自分の体質や起こりやすい症状(頭痛持ち、お腹を下しやすい、胃が痛くなりやすいなど)に合わせた薬を準備しておくことで、つらい症状を一時的に和らげ、心身の負担軽減につながることが期待できます。
ただし、市販薬も処方薬と同様に、現在治療中の病気や服用中の薬との飲み合わせによって使用できない場合があります。あらかじめ医師または薬剤師へ相談したうえで、自分に適した薬を備えておくと安心です。
非常時や避難生活で起こりやすい不調と、準備しておきたい常備薬
では、実際に災害が起きた際や大規模災害による避難生活では、どのような不調が懸念されるのでしょうか。また、それに対して準備しておきたい薬を紹介します。
風邪症状(喉の痛み、咳など)
災害が起きた際には、十分な身の回りの準備をする間もなく家を出ることも考えられるため、気候に対して十分な服を着られるとは限りません。また、体育館などの避難所では、冬場は暖房器具をつけることや人口密度の高さから、空気が非常に乾燥します。喉の痛みや咳、風邪のような症状には特に要注意です。
- 葛根湯の効果とは?薬剤師に聞く正しい服用方法と注意点
-
-
葛根湯(かっこんとう)は、風邪の初期症状に効果があるとされる漢方薬です。寒気や関節痛、頭痛、首の後ろから背中にかけての筋肉のこわばりといった症状を和らげ、風邪の進行を防ぐのに役立つとされています。
本記事では、漢方アドバイザーの薬剤師が、葛根湯の効果や適切な服用タイミング、服用時の注意点などについて解説します。 - 続きを読む
胃腸の不調/便秘
被災や避難所生活の最初の数日は、極度の緊張から交感神経が活発になっています。すると、胃腸の働きが鈍くなることで便秘傾向になります。逆に少し落ち着いてくると、今度は副交感神経が優位になって胃腸が働きはじめ、働きが鈍っていた反動で胃酸が過剰分泌されたり、普段食べ慣れない非常食などによって胃腸炎や食あたり(下痢)を起こしたりするケースがあります。
また、非常食は水分が少なく炭水化物に偏りがちです。さらに、避難所のトイレが混雑していたり不衛生だったりすると、行くのを我慢して、意図的に水分の摂取を控えてしまう人も。これが原因で重度の便秘になったり、ひどい場合は脱水症状や血栓症を引き起こしたりする危険性もあります。
不眠
慣れない環境、周囲の物音、そして不安などから眠れなくなる人も多くいます。また、睡眠不足によって体力の低下、免疫力の低下につながり、余計に体調を崩しやすくなるという悪循環に陥ってしまう点も問題となります。普段は睡眠で困ることがないという人も、市販の睡眠改善薬を備えておくことは選択肢の一つです。使用にあたっては医師・薬剤師へ、あらかじめ相談するようにしてください。
皮膚トラブル
断水によって入浴ができない、あるいはストレスなどが原因で、湿疹やかぶれなどの皮膚炎を起こすケースもあります。そうした状況に備えて、ステロイド外用薬あるいは、非ステロイドの抗炎症・かゆみ止め成分が配合された市販薬を準備しておくと安心です。ただし、ステロイド外用薬は化膿時に使用するとかえって悪化することもあるため注意が必要です。症状が強い場合に短期間のみ使用するようにしましょう。
防災リュックに適さない薬と、保管方法の注意点
防災リュックは基本的に常温での長期保管となるため、以下のような薬は適していません。
要冷蔵の薬
一部のシロップ剤など、冷所保存が必要なものは避けましょう。ただし、インスリン製剤などは命にも関わるもののため、持って避難することが可能な場合には、持っていきましょう。
吸湿性の高い薬
湿気に弱い粉薬や、一度PTPシート(錠剤やカプセルを1錠ずつ包んでいるシート)から出してしまった薬などは劣化しやすいため、不向きです。錠剤やカプセル剤など1回分ずつ個別包装されているものはシートのまま保管してください。また、災害時は飲料水が不足しがちです。市販薬などを選ぶ際には、少量の水で飲める小粒の錠剤や、水なしで飲めるタイプの薬を選ぶと、断水時などでも服用しやすく便利です。
防災リュックに入れた薬を見直す頻度の目安は?
市販薬は、外箱や容器に使用期限が記載されているため、非常食や飲料水と同じように定期的なチェックが必要です。多くの場合、未開封であれば製造から数年程度は持ちますが、防災リュックに入れっぱなしにせず、最低でも2年に1回は中身を確認・交換することをおすすめします。
期限の切れた薬は、成分が酸化したり光で分解されたりして効果が低下するだけでなく、変質した成分によって思わぬ副作用やアレルギー反応を引き起こす危険性がゼロではありません。「もったいないから」と期限切れの薬を使うことはやめましょう。
災害時に重要となる服薬情報
避難先で救護班などの医療支援を受ける際、「自分が普段どんな薬を飲んでいるか」を正確に伝えることが非常に重要です。
たとえば、ひと口に「血圧の薬」と言っても数十種類あり、成分もさまざまです。水分不足で脱水状態にある高齢者が、普段とは違う血圧の薬を安易に服用してしまうと、急性腎障害を引き起こす恐れなどもあります。また、過去に薬で発疹が出たなどのアレルギー歴がわからないと、抗生物質でアナフィラキシーショックを起こしてしまう危険性も。
便利な対策としては、スマートフォンの「電子お薬手帳」サービスを利用することです。災害時に慌てて家を出る際でも、スマートフォンは貴重品として持ち出す可能性が高いため、正しい服薬情報を持ち運べます。アイセイ薬局が提供するおくすり予約サービス「おくすりPASS FAST」は、電子お薬手帳機能付きで、服薬情報の一元管理もできますので、ぜひご活用ください。
おくすり予約サービス「おくすりPASS FAST」の詳細はこちら
スマートフォンをお持ちでない方は、紙のお薬手帳や飲んでいる薬の名前・副作用・アレルギー歴などを詳細に書いたメモを、お財布や携帯用ポーチなど「常に持ち歩く貴重品」と一緒に入れておきましょう。自分の身を守るためにも、「何の薬を飲んでいるか言える状態」にしておくことが大切です。
防災リュックに入れる薬に関する素朴なQ&A
防災リュックに入れる薬は何日分あればよい?
防災リュックに入れる薬は、大体3日分を目安にしましょう。基本的には3日ほどあれば、救護班などが介入できます。ただし、被災地が山奥などの場合は介入が遅くなることもあるため、不安な場合には1週間分程度の備えをしてもよいでしょう。
普段から飲んでいる薬がある場合、災害時用に多めに処方してもらうことはできる?
薬の種類や病態の安定具合にもよりますが、かかりつけの医師に相談することで災害備蓄用として多めに処方してもらえるケースはあります。高血圧や糖尿病、コレステロールの薬など、普段から医療機関で処方された薬(医療用医薬品)を飲んでいる方にとって、薬が途切れることは命に関わる場合もあります。
ただし、安定剤や睡眠薬などの向精神薬、あるいは管理が厳格な一部の特殊な薬に関しては、乱用防止の観点から予備としての処方が難しい場合があります。ご自身の飲んでいる薬が多めの処方が可能かどうか、まずは主治医に「災害時に備えて、1週間分ほど手元に薬をストックしておきたい」と相談してみてください。
避難所での薬の扱いに関する注意点は?
避難所では、助け合いの気持ちから、自身が持っている市販薬などを他人にあげてしまうケースがあります。しかし、水分補給が足りていないなど、普段とは異なる環境で薬を使用すると、思わぬ副作用が現れることもあります。そのため、市販薬であっても気軽に人に薬を渡すことは避けましょう。
「もしものとき」に備えて、自分に必要な薬を
防災リュックには、基本の4点セットともいえる、解熱鎮痛薬や胃腸薬、整腸薬、風邪薬を入れておきましょう。また、自分の体質に合わせて必要になりそうな薬も準備しておくことで、「もしものとき」に役立ちます。ぜひこの機会に、防災リュックの中身を見直してみましょう。さらに、普段飲んでいる薬がある方は、薬の名前を把握できるよう、アプリやお薬手帳を活用してみてください。