高齢化が進むなか、ポリファーマシーという言葉が注目を集めています。
本記事では、誰にでも起こりうるポリファーマシーの要因やポリファーマシーによって引き起こされる副作用、ポリファーマシーを防ぐためのポイントをわかりやすく解説します。
ポリファーマシーとは
ポリファーマシーとは、多くの薬を意味する「poly」と「pharmacy」を組み合わせた造語ですが、単に薬の数が多いことを指すのではなく、服用する薬の数が多くなることで薬物有害事象※を引き起こしている状態、もしくはそのリスクがある状態を指します。
特に高齢になると、病気や体の不調が重なり、複数の診療科を受診することが多くなるため、ポリファーマシーが起こりやすいと考えられています。
※副作用や薬の組み合わせにより薬の影響が大きく出てしまう(相互作用)等
ポリファーマシーが起こる主な要因
ポリファーマシーは、加齢に伴う体調の変化や、複数の医療機関で診察を受けるなど、いくつもの要因が関わり合っています。
ポリファーマシーが起こる主な要因としては、次のようなことが考えられます。
病気や加齢による薬の増加
生活習慣病や高齢による慢性的な疾患が増えることで、服用する薬の数も多くなります。例えば、高血圧や糖尿病、脂質異常症など複数の病気を同時に治療している場合、それぞれの治療に必要な薬が処方されます。
その結果、気づけば服用する薬が必要以上に多くなってしまうということも少なくありません。
複数の医療機関を受診
体の不調ごとに専門の医療機関を受診すると、それぞれの医師が治療に必要と判断した薬を処方します。その際、別の医療機関が処方している薬と同じ効果がある薬や似た働きをする薬を処方されることで、効果が重複したり、相互作用のリスクが高まったりすることにつながります。
市販薬と処方薬の併用
市販薬(OTC医薬品)は手軽に入手できるため、風邪や胃の不調などで自身の判断で服用する場合も多いでしょう。
しかし、市販薬と処方薬の成分が重複するなど、薬の飲み合わせの問題が起きる恐れがあります。
ポリファーマシーによって引き起こされる薬の副作用
複数の医療機関で処方された薬や市販薬などを併用して使用するなど、薬の種類が増えている場合、思わぬ副作用が出てしまう恐れがあります。代表的な副作用には、次のようなものがあります。
転倒
ふらつきや立ちくらみを起こすことがあります。これが転倒の原因となり、骨折やけがにつながるリスクが高まります。
認知機能の低下
注意力や記憶力が低下しやすくなることがあります。もともとの加齢による体の変化に薬の影響が重なると、物忘れや混乱が強まる恐れがあります。
食欲不振
胃に負担がかかったり、味覚に影響を与えたりすることがあります。その結果、食欲が落ちて体力低下につながることもあります。
眠気、不眠
強い眠気が出ることもあれば、逆に寝つきが悪くなることもあります。特に複数の薬が影響し合うと、日中の活動に支障が出たり、夜間の睡眠リズムが乱れたりする恐れがあります。
排尿障害、便秘
膀胱や腸の働きに影響し、排尿しづらくなったり、便秘を引き起こしたりします。高齢者にとっては、これが生活の質(QOL)を大きく下げる要因になります。
副作用から薬が増える?「処方カスケード」とは
薬を飲み続けるなかで、副作用が出てしまうことがあります。本来であれば副作用と気づくべきところを新しい病気の症状だと誤認し、その症状を抑えるために新たな診療を受けることで、必要のない薬が処方・追加されてしまうことがあります。こうして薬が増えることでさらに副作用が起こり、新しい薬が処方されるという悪循環に陥ります。このように、不要な薬が次々と増えてしまう現象を「処方カスケード」と呼び、ポリファーマシーを加速させる原因となります。
ポリファーマシーを防ぐために
患者さまご自身やご家族の皆さまが治療や薬の管理に関心を持ち、積極的に関わることでポリファーマシーが起こるリスクを減らすことができます。
ご自身やご家族でできるポリファーマシーを防ぐためのポイントをいくつかご紹介します。
①お薬手帳の活用
複数の医療機関を受診する際や市販薬を購入する際には、お薬手帳を必ず提示しましょう。お薬手帳にすべての薬の情報をまとめておくことで、医師や薬剤師が重複処方や良くない薬の飲み合わせがないか、確認しやすくなります。
②かかりつけ薬局・薬剤師の活用
一つの薬局でまとめて薬を受け取ることで、服薬状況を一元的に管理してもらえます。かかりつけ薬剤師に相談して、副作用の可能性や薬の飲み合わせのチェック、不要な薬が増えていないかの確認をしてもらいましょう。
③ご家族の協力
患者さまご自身だけで薬の管理を続けることが難しい場合もあります。
ご家族みんなでお薬手帳を確認したり、診察の際にご家族が付き添ったりすることで、服用状況を把握し、薬の飲み忘れや誤った薬の服用を防ぐことができます。
ポリファーマシーは多くの薬剤を服用している患者さまにとって深刻な問題となり得る一方で、適切な対策を講じることでリスクを減らすことができます。お薬手帳を活用したり、かかりつけ薬局や薬剤師を持ったりすることに加え、医師や薬剤師と積極的にコミュニケーションを取ることで、安全で効果的な薬物治療を受けることができ、使用する薬が減ることで薬代などの医療費の削減にもつながることもあります。
薬について不安や疑問がある場合は、専門家である医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
アイセイ薬局
薬剤師
特定の地域や医療機関では、患者さまの服薬状況を共有して不要な薬を見直す「薬の見直し会議」や、適正な服薬方法について学べる啓発イベントなど、さまざまな取り組みがおこなわれています。内容や参加方法は地域や医療機関によって異なるため、ご自身の住む地域でどのような取り組みがあるか、ぜひ調べてみてください。